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別府竹細工を、世界へ。-「次世代バンブーアート賞」が見据える竹工芸の未来-

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別府竹細工を、世界へ。-「次世代バンブーアート賞」が見据える竹工芸の未来-

2024年に第1回が開催された「次世代バンブーアート賞」は、日本国内を拠点に創作活動を続ける竹工芸作家を対象にしたコンペティションです。2026年5月16日、別府市竹細工伝統産業会館で、第2回の表彰式が開催されました。多数の応募者から選ばれたファイナリスト7名が紹介され、その中から最優秀賞1名、優秀賞2名が発表されました。
このコンペティションを設立したのは、日本の竹工芸や現代芸術をアメリカに紹介し続ける、日本の竹工芸の専門家、ロバート・コフランド氏とマーゴ・トーマ氏。若手竹工芸作家に用意された、海外への登竜門ともなっています。
海外を資本とする賞が日本で開催される理由とは。海外の視点からみる竹工芸の魅力や、現状とこれからの展望など、創立者や審査員、受賞者へのインタビューを通してお届けします。

次世代バンブーアート賞とは。

『次世代バンブーアート賞』は、かつてアメリカで開催されていた『コッツェン バンブー賞』※の理念を受け継ぐ形で、2024年に始まりました。その開催地は、大分県別府市。主催者は、アメリカの竹工芸ブームを牽引する竹工芸の専門家、ロバート・コフランド氏とマーゴ・トーマ氏です。竹工芸の魅力や価値、世界的な人気の高さをよく理解しているのはもちろん、日本で創作活動を続ける竹工芸作家の現状もよくご存知のおふたりは、「日本の竹工芸の明るい未来を、確実なものにしたい」と願い、このコンペティションを開催することになりました。
 
※『コッツェン バンブー賞』は、世界的に知られる竹工芸のコレクター、ロイド・コッツェン氏による、日本の竹工芸作品のコンペティション。
ー2024年に最優秀賞を受賞した中臣一は、海外への道がさらに開け、竹芸家として大きく飛躍した。

初開催となった2024年、コフランド最優秀賞を受賞したのは、大分県立別府高等技術専門校(現・大分県立竹工芸訓練センター)出身の中臣一氏。国内の有名ホテルで数多くのアートワークを手掛け、世界各国の美術館やギャラリーで作品を発表するなど、すでに国内外で活躍されていましたが、『次世代バンブーアート賞』での最優秀賞受賞は、大きな転機になったと言います。
<中臣氏のお話>

まず、とても自信になりました。私は竹に携わって25年ほど。50歳も過ぎていますし若手ではないのですが、最優秀賞を受賞したことをきっかけに、教える側になるなど、「立場が変わった」と実感しています。実際、大分市美術館が実施している『MEET BAMBOO PROJECT』には、“指導役”として携わっています。
竹の業界としては、日本中の若手から中堅の作家を対象にしているこのコンペティションが、大分県別府市で開催されることで、これまでの支援よりもより強力に、「竹を大事にしよう」と支援が厚くなっていることを感じます。
ー受賞後は、サンフランシスコアジア美術館での作品展示が約束されている。

受賞した3名の作品は、今年の秋、サンフランシスコアジア美術館で展示されることも決まっています。この美術館は、世界でも有数の竹工芸収蔵数を誇る、北米での日本竹工芸の中心的な存在。世界中で高まっている現在の竹工芸人気のブームを作った人と言っても過言ではない、世界的に知られる竹工芸のコレクター、故ロイド・コッツェン氏が収集した900点を超える竹工芸作品も収蔵されています。

ロバート・コフランド氏からみる竹工芸の魅力

コフランド氏が初めて竹のカゴに出合ったのは、1986年。竹の根が持ち手になっている、独創的な竹籠を手にしたことで、彫刻的な造形に対する関心が高まります。とりわけ興味が深まったのは、立体とその空間、光、素材との関係性。より理解を深めたいと、数多くの美術館やギャラリーを回る中、ロイド・コッツェン氏の竹工芸のコレクションを目にして、竹ヒゴの細かさと編みの複雑さに圧倒されます。さらにコッツェン氏のコレクションに度々通い、作品への理解が深まるにつれ、作品の多くが極めて強い彫刻的な、立体的な性質をもつことに気づきました。コッツェン氏は、「1本の竹から人間が成し遂げられることに、私は驚かされ続けているんだよ!」と、語ったのだそう。
 
その後、コフランド氏は大分や別府を含む日本を度々訪れ、新たな作家、作品に出会うたびに、その美しさと力強さに圧倒されてきました。そして、自身が出合った作品を、コッツェン氏などのコレクターに紹介。美術館での展示も重ねてきました。コフランド氏が企画した展示によって、アメリカでの日本の竹工芸への関心はさらに高まり、今に至っています。「竹工芸は日本の美術、芸術の中で極めて貴重な芸術様式です。日用的なカゴから始まったものが、こんなに素敵なアートになるなんて。竹の花籠は、そこに花があっても、なくても素晴らしい。世界中を見ても、このような素晴らしい技術はありません」と、コフランドさんは語っています。
 
「私個人の夢は、日本の竹工芸が1000年後もなお繁栄していること。(同じく主催者である)マーゴと私は、この次世代バンブーアート賞が、作家を支えるコミュニティーを強め、この素晴らしい伝統がさらに発展していく未来づくりに、少しでも貢献できることを願っています」。

第二回次世代バンブーアート賞の受賞者をご紹介

コフランド最優秀賞:大木淑恵

埼玉県さいたま市在住。人間国宝の飯塚小玕斎(いいづかしょうかんさい)の最後の弟子として指導を受けた。
<コメント>

「このような栄誉な賞をいただき、感動しています。
これまでは伝統的な工芸分野で続けていましたので、今回のようなオブジェの方など、様々な分野の方々と一緒に競い合えるという機会は初めて。その中でグランプリをいただけたことは、本当に光栄です。
竹の作家は食べていくことが難しいのですが、そうなると、やはり続きませんよね。私は、現在まで続いてきたこの竹の伝統や制作思想を、途切れさせたくないと思っています。そんな中で、ロバートさんやマーゴさんが竹工芸を盛り上げ、支援してくださろうとしていることは、本当にありがたいことだと思います。
竹工芸は、軽くて、扱いやすい。今後は「手に取れる美術」として、多くの方にもっと親しんでいただけたら嬉しいなと思っています。」

トラディション優秀賞:青柳慶子氏

熊本県生まれ。中学校の美術教師を経て、大分県立竹工芸訓練センターに入校。岐部笙芳氏に師事し、近年は、日本国内の伝統工芸展でも入賞を続ける。
<コメント>

受賞した実感がないほど、驚いています。“次世代”と名付けられたこの賞で、私自身が、次世代を一緒に盛り上げていくメンバーとしていただけていることがありがたいですね。
 
(作品に使っている)千鳥編みについては、岐部先生(大分県在住の人間国宝 岐部笙芳氏)がイチから技術を教えてくださいました。本来なら、初心者は千鳥編みをしないそうなのですが、「青柳には、細ヒゴが合う」と思ってくださったようで、「千鳥編みをしてみたら?」と勧めてくださったのがきっかけ。細いヒゴは竹も選びますし、編むのもとても難しいのですが、教えていただいた技術に、私が元々やっていた絵をリンクさせながら広がっていくことができているので、先生には本当に感謝しています。
海外の方々が竹工芸に注目してくださり、今回のような賞を作ってくださることには、感謝しかありません。今後は、竹工芸への評価が日本国内でも広まってくれるといいなと思います。

スカルプチャー優秀賞:長谷川絢氏

神奈川県生まれ。京都伝統工芸大学、高度専門課程(竹工芸・編組)修了。卒業後2年間、ベネズエラで竹の加工技術指導に携わり、2014年からは大分県竹田市に拠点を構え、美術作品としての竹工芸作品の制作を本格化。
<コメント>

(受賞は)予想もしてなかったので、びっくりしてしまって。「身に余る光栄」という感じなのですが、同時に「アーティストとして、これからも続けていかなければならない」という気持ちにもなりました。私の目標の1つ「海外での美術館展示」を、思わぬ形で叶えていただけることも、すごく嬉しいですね。
 私はこれまで、伝統工芸展に出品したことがありません。伝統工芸の分野で活躍されている皆さんと同じ会場に並ぶという経験もとても少ないので、皆さんとの距離が縮まるいい機会になりました。
私は京都の学校で学び、10年ほど前に大分に来ました。以来いろんな方に出会うことができたのですが、私とは持っている素地が全く違う方々ばかり。大分の学校に通っていない私に、大分のベースを教えくださいました。大分は、技術と才能のある方々がぎゅっとまとまっていて、情報交換も盛ん。この産地の魅力を超えて、これからもっとこのムーブメントがつながっていってほしいな、と思っています。

主催者・審査員からの総評

ーロバート・コフランド氏

今回のファイナリストの方々の作品には、とても感動しました! そして、輝かしい未来が見えました。みなさんが、これからますます成長して、いいアーティストになってくれると確信しています。 審査員 マリサリンネ氏(京都国立博物館主任専門職)、 森嶋由紀氏(サンフランシスコアジア美術館 日本美術アソシエイトキュレーター) ファイナリスト7名の作品を実際に拝見して、伝統的技術、そして現代的なデザインを融合させた、次世代の竹工芸家たちの創意工夫に、改めて深い感銘を受けました。21世紀における竹芸の未来への可能性を目の当たりにし、とても刺激になりました。
<最優秀賞 大木淑惠氏の作品について>
 私たちは、サンフランシスコのアジア美術館に収蔵されている、900点ものコッツェンコレクションの担当を経験しています。歴代の名作家の作品もたくさん見てきました。その中でも、大木さんの作品は、洗練された形、竹の処理はもちろん、結びの技術やデザイン、ヒゴの染め方や表面の漆の仕上げまで、あらゆる面全てで技術が高い。特に漆の美しさは素晴らしいと思います。作品にもオーラを感じました。


<トラディション優秀賞 青柳慶子氏の作品について>
彼女の年齢でこれほどの技術があるということに驚き、その技術の高さに圧倒されてしまいました。千鳥編みは、指導されている岐部先生も得意な技法。その中でも、髪の毛ほどの、糸のように細いヒゴを使って編んでいる。その技術の高さは素晴らしいと思います。象徴的にいろいろな色を入れた作品は、これまでに見たことがないような色合いでした。日本なのか、アメリカンインディアンなのかわからないような、本当に独特な色の使い方だと思います。白竹の作品も、とても美しく素敵ですね。

 
<スカルプチャー優秀賞 長谷川 絢氏の作品について>
 彼女の作品の「束ね編み」は、別府や大分ではよく使われている技術です。ですが、“束ねる”というのは、実はとても作るのが難しい。見た目はシンプルですが、とても高度な技術で作られていて、しかも複雑な組み合わせを使っている。他ではあまり見たことがない、独創的でユニークな技術が、造形的な作品にとてもよく生かされていると思いました。

竹工芸分野の著名な作家による応援メッセージ

表彰式には、竹工芸分野の著名な作家たちも多数招待され、式の様子を見守っていた。コフランド氏との関係も深く、業界をけん引する方々にもインタビューを行った。
ー人間国宝 岐部笙芳氏

青柳さんは私の教室の生徒なので、受賞したことは非常に嬉しいですね。聞けば、教室に入って6年目だそうです。「この6年で、蒔いた種が芽を出して、だんだんと大きく育ったんだなぁ」という思いです。
でもね。青柳さんだけではなくて、今回のファイナリストの皆さんのような、若い人がこれだけ育っているということは、やはり大事なことですよね。別府や大分県内でこれだけ育っていることは、すごいなあと思います。
だからこそ、この賞はぜひ、ずっと続けてもらいたい。今、一番気に掛かるのはそこです。こういう賞をぜひ続けていただいて、若い人たちの才能を引き出すような機会が続いていくことを、祈っています。


ー人間国宝 藤沼昇氏

別府は、竹のいい素材がたくさんある。九州はいい道具も揃っています。だからこそこの街で、竹の工芸を次世代の人に残すため、竹細工も含めて竹のものづくりを続けてほしいと思っています。
作家の皆さんには、「日本だけじゃなくて、海外の人がちゃんと見てくれているよ!」ということを、意識してほしいですね。今回の賞のように、海外の方が日本の文化をここまで大事にしてくれるなんて、信じられないこと。すごいことです。実際、今は竹工芸の作品の9割はアメリカに渡っていて、欧米の人たちは竹のアート作品にとても興味を持っています。その竹工芸への興味に刺激を受けて、日本人にも竹工芸への興味や関心が広がっていくことを期待しています。

日本人がこの伝統文化である「竹工芸」の価値を理解し、広めていってもらえるようになるのが私たちの想いです 。

ーロバート・コフランド氏は、竹工芸の未来についてこう語りました。

「竹工芸作家になる道は、とても長く、困難なものです。長年の修練、個人的な犠牲、そして評価や経済的な安定が保証されない中でも、自らの作品の価値を信じ続ける強い心が求められます。今年応募されたすべての作家の皆様に、心から敬意を表します。皆様の独創性、鍛錬、そして勇気こそが、この芸術の未来を支えています。
アメリカでは、メトロポリタン美術館など、多くの美術館で日本の竹工芸コレクションが増えてきました。それは本当に嬉しいことです。美術館で竹の展示をすることで、その魅力や芸術性がゆっくりと広まり、コレクターにも竹工芸の重要さが認識されてきました。これからは、日本国内でも、竹の美しさが再認識されることが大事ではないかと思っています。
 世界的に見ても、こんなに素晴らしい技術はありません。日本国内で、大分県でも、別府市でも、もっと竹工芸に対するサポートが増えていくといいなと思っています。」
 
そして審査員のお二人からも、「日本の竹工芸は、世界に誇れるものです。ただ、「きちんとした作品を作るまでには、10年の訓練が必要」とも言われ、作業は地道で孤独。それだけに、決して機械には真似できず、AIに入れ替えることができないものです。これからの時代、ますます貴重な技術として認められるのではないかと思っています。その意義を、多くの方に理解していただきたいですね。現在は海外の方が竹工芸の素晴らしさを認め讃えていますが、日本国内からもこういう試みが生まれると素晴らしいなと思います。」
 
また会場に来られていた大分県立美術館 学芸員である武関真衣氏からはこのようなお話も。
「今回、大分県立竹工芸訓練センターを卒業して3年目の池田義弘さんがファイナリストに選ばれています。これほどの若手と20年を超えるキャリアの方が同時にファイナリストになるコンペティションは、これまでにありませんでした。竹といっても様々なジャンルがあるのですが、この賞にはジャンルの制限もありません。キャリアもジャンルも関係なく、日本中の竹の作家さんたちだけが集まって、自分を表現して挑戦する場があることは素晴らしいと思います。」
 
どの方からも聞かれたのは「日本でこそ竹工芸の魅力が広まってほしい」という想い。
海外でこれほどまでに熱く讃えられる竹工芸、私たち日本人こそ、もっと深く理解していくことが大事なのではないでしょうかー。

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